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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)374号 判決 1960年9月30日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士仲節雄、同小林昶の上告理由は別紙のとおりである。

上告人は被上告人宝塚市選挙管理委員会を被告として本訴を提起したのであるが、職権をもつて被上告人の被告適格について調査する。

一、上告人は兵庫県選挙管理委員会が、昭和三四年六月二〇日上告人の訴願についてした裁決の取消を求めるのであるが、被上告委員会は右裁決をした委員会ではないから右訴について被告たる適格を有しないこと明白である。

二、上告人は被上告委員会が昭和三四年五月一日付をもつてした、宝塚市議会議員の欠員による繰上補充当選人を谷添正雄とした決定の取消を求めるのである。

この点について、原判決は、市議会議員当選の効力に関する訴訟において市選挙管理委員会は被告たる適格を有しない旨を判示しているのである。しかし、公職選挙法二〇七条は、地方公共団体の議会の議員の当選の効力に関する訴訟を規定しているけれども、国会議員の当選の効力に関する同法二〇八条のように、何人を被告とすべきかを規定していない。同法二〇七条二項、二〇三条二項は、当選の効力に関する訴訟について異議決定、訴願裁決を受けた後でなければ提起することができない旨を規定しているけれども、何人を被告とすべきかを定めた規定でないことは説明を要しない。訴願裁決で異議決定を取消変更した場合には、裁決に不服のある者は裁決庁を被告として訴訟を提起するよりほかはないけれども、訴願裁決、異議決定がともに当初の当選人決定を維持した場合には、決定、裁決に不服のある者の不服の原因は当初の当選人決定により生じたものともいうことができるのであつて、選挙を管理し当選人の住所氏名を告示した市町村の委員会を被告とすることを違法とすべき理由はない。この場合に、若し判決が当選人の当選を無効とした場合には、異議決定、訴願裁決は形式上はなくならないけれども、実質上効力を失うものと解して少しも支障はないのである。(昭和二三年六月一五日の当裁判所の判決(判例集二巻七号一三四頁)は、地方自治法六六条四項(公職選挙法二〇七条に相当する規定)の訴訟は当選人を被告とすべきではなく決定または裁決をした都道府県選挙管理委員会を被告とすべき旨を判示しているけれども、その趣旨は当選人を被告とすることを違法とする趣旨であつて市町村選挙管理委員会の被告適格を一般的に否定する趣旨ではないと解するのが相当である。この事件では訴願裁決が異議決定を取り消しているのであつて、このことからも、右の判決は本件の先例になるものではない。また、原判決引用の昭和二四年三月一九日の判決は、被告適格について判示したものではない。)記録に徴するに、上告人は被上告人が訴外谷添を当選人としてした告示に不服で被上告人に異議を申し立て棄却され、兵庫県選挙管理委員会に訴願して棄却されたというのであるから、本訴において被上告人に被告適格がないとした原判決は違法であるといわなければならない。

しかし、右訴外谷添正雄の当選の効力を争う本件上告人の主張によれば、上告人は宝塚市議会議員であつたが、昭和三三年三月一八日公職選挙法違反について、宝塚簡易裁判所において略式命令をもつて罰金刑に処せられ、上告人は正式裁判を請求したが、昭和三四年四月一〇日右正式裁判請求を取り下げ、右略式命令を確定させ即日罰金を納付して刑の執行を受け了つた。しかし、同年四月一〇日政令一一三号復権令が公布即日施行されたので、上告人は公職選挙法二五二条の適用を受ける状態の発生と同時に、失つた選挙権、被選挙権を回復したのであるから宝塚市議会議員たる職を引続き保有しているのである。しかるに、上告人が議員たる職を失つたものとして前記谷添を当選人と決定したのは違法であるというのであるが、上告人に対し公職選挙法二五二条により選挙権、被選挙権停止の効力を生じたのは、四月一〇日上告人が罰金を完納して刑の執行を受け了つたときからと解すべく、そして復権令によつて資格を回復するのは四月一一日からであることは、復権令二条の規定上明らかであり、同日選挙権、被選挙権を回復しても、前日すでに地方自治法一二七条により失つた議員たる職を回復する理由はないから、結局、上告人の訴は、請求自体理由がないことに帰し、前述被告適格に関する原判示の違法にもかかわらず、上告人の上告は棄却するを相当とする。

三、上告人は、被上告委員会を被告として宝塚市議会議員の職を有することの確認を求めるのであるが、議員が公職選挙法二五二条に該当するためその職を失うのは、刑事判決確定の当然の結果であつて議会その他の行政機関の決定をまたないことは地方自治法一二七条の規定に照して明らかである。従つて、議員たる職にあることの確認を求める訴は、行政処分の取消変更を求める訴ではなく、また、選挙関係訴訟でもないから行政庁を被告として提起することはゆるされず、ことに被上告委員会は、上告人の議員たる職の喪失には何等の関係もないのであるから、同委員会を被告として右のような訴を提起することはできないものといわなければならない。

以上説明のとおり、本件上告は結局理由がないことに帰するから、本件上告を棄却することとし、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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